病気の原因-素因(体質)
その人がどのような病気になりやすい体質なのか?を考えるのは、未病治を得意とする東洋医学においては重要なことです。
体質のことを、素因と言います。
鍼灸治療を受けに来られる方は、この体質から少しはみ出した程度の症状を訴える方が1番多いです。
病院へ行っても「どこにも異常はありません」と言われるけれども、体調が悪い…と言う方です。
この体質のことを頭に入れておけば、病院で検査を受けても異常が見つからないのに体調がすぐれない、という場合でも、治療をしていくことができます。
そして、常に体質のことを頭に入れて、治療を受けたり日々の養生を行っていれば健康を保持することができ、病気の予防にも繋がります。
病気が慢性化して体質が変化してしまっても、それを考慮して治療や養生を続けていれば体質を変えられることもできますし、体質とは関係なさそうな急性症状であっても予後の判定などがしやすくなります。
素因は以下のように考えます。
五行色体表も参考にしながらご覧ください。
肝実証タイプ…血のうるおい(津液)や巡らせる力(気)が不足して、流れが悪く停滞しやすい
目が大きい。瘀血が多い体質なので、色が黒くシミも多く肌のキメが粗い。筋肉質でがっちりした体格。
仕事もテキパキと片付け、少々のことでは動揺しない親分肌。声が大きい。あまり怒らないが、怒ると怖い。
肩こり、筋肉痛を訴えやすい。食欲旺盛で便秘をしやすい。
肝虚熱証タイプ…血が不足して、熱が発生しやすい
目が細く切れ長。美人が多い。耳介の内側にある隆起が耳介よりも外に飛び出している。痩せているが筋肉質な体格。
仕事は最後までキッチリやらなと気が済まない、几帳面で潔癖症。なのに血が不足して思ったことを完璧にできないために、イライラする。体力以上の仕事を抱え込む。
イライラ、不眠、頭痛、肩こりを訴えやすい。便秘しやすい。
肝虚寒証タイプ…血が不足して、冷えやすい
目が小さい。耳介の内側にある隆起が耳介よりも外に飛び出している。痩せて筋肉もない。顔色が青白く、貧血で冷え症と言われるタイプ。
気力・体力共になく、弱気。怖がりで被害妄想的になることもある。ときどき、イライラしながら仕事をし、強気と弱気が交錯しやすい。
手足が冷え、しもやけになりやすい。不妊に悩む人が多い。下痢になりやすい。
脾実証タイプ…糖尿病や高血圧など
脾は熱を受け付けず、ベッチャっとしていて消化液を出すだけの陰性で静かにしている臓なので実になることはありません。
脾実になるとすれば糖尿病や高血圧症などで、内部の熱が長期に及ぶ場合だけです。鍼灸や家庭でのセルフケアで病気を治療して予防できる状態の人では、ほぼ見られないので考えなくてもよいでしょう。
脾虚熱証タイプ…胃腸に熱が多くなりやすい
顎骨が張っていて、口が大きく唇も厚い。
何でも食べてしまい、食べ過ぎる。行動的で、歌うのが好きで、度が過ぎると躁状態になる。
胃もたれ、下痢、便秘、手足の倦怠感を訴えることが多い。
脾虚寒証タイプ…飲食物を消化吸収するのが苦手で、体に必要なものが足りず冷えやすい
口が小さく、口の周囲が黄色くなりやすい。痩せている。
何事にも消極的で、根気がない。物思いにふけることが多く、空想の世界が好き。四肢に力が入りにくく、ダラダラしがちになる。
食が細く、食べ過ぎると下痢をする。全身が冷えやすい。
肺実証タイプ…外邪の侵入、高齢者の肺炎など
常に外気と接し、肺の水分によって熱を外に出しているため、乾燥したり外邪によって発生した熱が肺に侵入しない限り実になることはありません。
インフルエンザや高齢者の肺炎などでみられるため、日常的に体質としてみられることはほぼありません。
肺虚熱証タイプ…気が停滞して、熱が発生しやすい
色が白くて体毛が多い。意外と筋肉質。
声が低温で力があり、自分に自信を持っている人が多い。気配りが下手な人が多い。
汗をかきやすいが、汗をかき過ぎると冷える。
体調がよい時は、汗をかくくらい動き回ると気の循環がよくなるのでスッキリするのだが、汗が出ずに陽気が発散されないと、体表面に熱が停滞して肩こりをする。
ビールや牛乳で下痢をしやすい。扁桃腺が腫れやすい。
肺虚寒証タイプ…気が足りなくて、冷える
色が白く薄い体毛が多い。特にカゼをひきやすい、寒がりな子どもは肩背部にうぶ毛が多い。
声に力がなく、行動力がない。愚痴が多い。
冷えやすく、冷えると色の薄いお小水が多量に出る。くしゃみや、鼻水がよく出る。うつ状態になりやすい。
腎実証タイプ…実はない
津液が多い臓なので、熱が多くなっても津液が乾くだけで、熱が多くなりすぎて実になるということはありません。
腎虚熱証タイプ…うるおい(津液)不足により、乾燥して熱が発生しやすい
耳が大きく前進の皮膚が浅黒くてツヤがあれば、減りにくく長生きをします。しかし、腎が丈夫な人は無理をしがちです。
腎虚になると、大きな耳が前に開いたようになる。肥満体型になる。
恐れやすくなり、へりくだった物腰になる。
高齢になって、物腰が柔らかくなるのは腎虚、怒りっぽく気が短くなるのは肝虚が考えられる。
津液の不足により、足裏のほてり、夜間頻尿、息切れや動悸になる。
腎虚寒証タイプ…陽気が不足して、体が冷え、水が停滞しやすい
耳が小さく、内側に縮まったような耳をしている。
気力に乏しく、弱気で、積極性に欠け、根気がない。
夜尿症や、異常に怖がりな子に見られる。
足腰が冷え、常にカゼをひきやすい。夏でも汗が出ない。食欲がない。病気に対する抵抗力が弱く、少し体調を崩しただけで重大な病気になりやすい。
心臓が止まってしまったら人間は生きてはいけませんので、生きて普通に生活している人間の話をしている以上、心の虚実は考えません。
しかし、他の臓腑から発生した寒熱を心は受けやすいので、もし心に何らかの症状がみられたときは、それがどこからの影響なのかを考える必要があります。
肝心脾肺腎のバランスが完璧に取れている人はいません。
どこかの臓腑の働きが盛んで、どこかの臓腑の働きが弱い…ということが必ず見られます。
それを体質=素因といい、それを考慮して治療や日々の養生をしていく必要があります。
たとえば、肝虚熱証タイプさんと腎虚寒証タイプさんが、「健康にいいから1日に水を2リットル飲みなさい」と、同じように言われたとします。
肝虚熱証タイプさんは大丈夫でも、腎虚寒証さんはますます体が冷えて水が停滞し、お腹も足も浮腫んでブヨブヨになってしまいます。
肝実証タイプさんと、脾虚寒証タイプさんが、「汗をかいて痩せよう!」といって、サウナやホットヨガなどにせっせと通い、汗をしぼり出したとします。
肝実証タイプさんは血のうるおいがますます減り、血がドロドロになって、最悪の場合脳卒中になりかねません。しかし脾虚寒証タイプさんは、同じだけ通っていても何もおこらず、体も温まり、溜まっていた余分な水分も出て体がスッキリするかもしれません。
この素因を知っていて健康法をするのと、知らずに健康法をするのとでは、効果が違うどころか命にもかかわってくるのです。
次回は、病気といわれるとイメージしやすい「外因」についてお話したいと思います。
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